歩いている高齢者にハラハラすることないですか?

読売新聞の連載コラムの紹介です。
高齢社会をふまえて、現状の交通設備は見直し・改善が必要だと思います。高齢者に「気を付けて」と言うだけでは解決しません。
歩いている高齢者にハラハラすること(またはイラッとすること?)があったら、あなたは“気づき”の戸口にいるのかも? 
誰もが順に老いていきます。現在あなたが目にしている高齢者は、あなたの「未来」かもしれません。

いちばん未来のシニアのきもち
歩いている高齢者にハラハラすることないですか?
(慶成会老年学研究所 宮本典子)
2017年11月21日 読売新聞
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20171114-OYTET50026/2/


 こんにちは、慶成会老年学研究所の宮本典子です。
 高齢者は、超高齢社会のいちばん先をいく人たちです。共に生きやすい社会をつくることは、次の世代の未来をつくることになると思いませんか?
 みなさんは、高齢者の歩き方にハラハラ、ドキドキしたことはありませんか?

《横断歩道を渡りきれない高齢者》
 私の仕事場の前に、片側3車線の大きな道路があります。時々窓越しに目をやると、高齢者がまだ半分くらいしか渡れていないのに信号が変わってしまい、危ない! 大丈夫かしら? と気をもむことがあります。
 道路の中央に緑地帯はありますが、だからと言って、横に移動して、そこで止まっていられるような幅でもありません。むしろそこにいては危険なくらいです。
 高齢者たちは、最後は小走りになり、青信号になった側の車が待つことで、無事に反対側に着く、という状態です。緊張して見ていた私も、これでやっとほっとします。

 健康的な日常生活を維持するために歩くことは能力を維持する上では不可欠ですが、加齢による運動機能の低下は避けられません。たとえば;
・高齢になると、歩幅が小さくなって歩く速度が遅くなります。
・地面から足を十分上げられない「すり足」も多くなります。
・体幹を支える筋力が衰えて体が前後に動くようになり、バランスも取りにくくなります。
 こうなると、つまずいて転倒しやすくなります。そのときは骨折する危険性が高く、骨折をきっかけに、寝たきりになってしまう人が少なくありません。
 信号が変わるからと、急いで転倒し、けがをしては本末転倒です。高齢者にとって、転ばないように歩くことは重要課題です。
 あわてずに済むように、青信号時間の延長ボタンの設置箇所が増えるとよいとは思いますが、場所によっては車の通行量を考慮する必要があり、普及はそう簡単なことではないようです。
 最近は横断歩道内に歩行者がいるとセンサーが働き、青信号の時間が延長される、というシステムもあるようです。少しでも安全な環境になってほしいと思います。
 当の高齢者たちも、歩くときは不安を感じています。

《若い人のスピードがこわい》
 「若い人たちが大勢で歩いてくると、ドキドキする。ぶつかってくるわけではないけど、サッとかわせないから、思わず身構えてしまいます」
 「まわりの歩く速度が早くて…。自分のすぐ横を、すごいスピードですり抜けられると、とても恐怖を感じます」
 「一本道を、ゆっくり、注意深く歩いていたら、後ろから来た人にためいきをつかれてしまいました。先を譲りましたけれど、なんだか情けなくなりました」
 道だけではありません。
 「階段の上り下りでは、必ず、手すりを使います。いざという時につかまるものがないのは、とても不安です」
 「電車の乗り降りがこわい。周囲の勢いについていけないので、あたふたしてしまいます。混んでいる時間はでかけないようになりました」
 高齢者の横をすり抜ける時のスピードや勢いが恐怖心を抱かせている、とは若い世代は気付いてはいないかもしれませんね。
 街は、先を急ぐ人たちだけのものではありません。高齢者の歩幅や歩く速度を理解していれば、心の余裕をもって、相手をびっくりさせずに歩けますね。そういう時こそ、いつもは気づかなかった街の景色に、心を奪われるのではないでしょうか。 (宮本典子 臨床心理士)


posted by tomi at 11:09Comment(0)高齢社会・バリアフリー

「歩いて暮らせるまち」づくりが有力な介護予防策に

毎日新聞の記事を紹介します。

くらしの明日
私の社会保障論 介護予防の重要性 転びにくいまちづくり=千葉大予防医学センター教授・近藤克則
毎日新聞2017年11月22日 東京朝刊
https://mainichi.jp/articles/20171122/ddm/016/070/036000c


 人は誰でも転ぶ。一度ならたまたまだが、二度あることは三度ある。何度も転倒した人は骨折したり、しなくても寝たきりになりやすく死亡率も高い。それが分かってきたので、予防に向けてどういう人が転びやすいのか研究されてきた。例えば筋力が低下した人、バランスの悪い人、歩くのが遅い人などである。

 心理面に着目すると「また転ぶのではないか」と不安を持っている人は、外出を控え、やがて気持ちがふさぎ込みうつ状態になる。うつ状態になると閉じこもり、ますます体力や筋力、バランスも低下し転倒しやすくなる。悪循環である。

 社会的な特徴に目を向けると、所得の低い人や教育を受けられなかった人、結婚していない人は転倒や骨折しやすかったりするから驚きである。そういう人ほど閉じこもりになりがちで、歩行量が少なく、うつも多くなるからだろう。

 このような転びやすい「人」に着目する「虫の眼」(ミクロ・臨床)から「鳥の眼」(マクロ・社会医学)に視点を変えると違う風景が見えてくる。転びやすい「まち」があるのだ。要介護認定を受けていない高齢者を対象に調べてみると、少ない所(小学校区単位)では7・4%に対し、多い所では31・1%と実に4倍も転んだ人が多いまちがあった。しかも高齢化の違いのせいではなかった。65~74歳の前期高齢者に限定した数字だからである。

 関連要因を探してみるとスポーツ関係のグループに週1回以上参加している高齢者が4割のまちでは、1割のまちに比べて、転倒経験者がおよそ半分であった。しかし、これだけではスポーツの会に参加していないから転ぶようになったのか、転んでいるから会に参加できないのか、どちらが原因で、どちらが結果なのかがわからない。

 「逆の因果関係」を取り除くためには、時間的に先行する参加の有無を尋ね、その後の転倒発生や新たに要介護認定を受けたかなどを追跡する縦断研究が必要である。そこで要介護認定を受けていなかった、参加しようと思えば参加できた1万人余の高齢者を対象に4年間追跡した。その結果、スポーツや趣味の会などに参加していない人に比べ、参加している人ほど要介護認定を受けにくいことが確認できた。3種類の会に参加している人では、要介護認定を受ける確率は0・57倍と43%も低くなっていた。「逆の因果関係」を差し引いても、参加が転倒予防につながるのだ。

 スポーツや趣味をしたい、グループに参加したいと思っても、身近にやっている人やグループがなければ参加のきっかけがない。続けるにも仲間が必要だ。だからスポーツや趣味の会が身近に多くあって参加しやすいまちづくりが介護予防に重要なのだ。